第三章 着信

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私もおやつにしようと温泉饅頭に手を伸ばした、その時。 携帯ではなく、家の固定電話が鳴った。 この家は山の中なので、携帯が圏外になってしまう。そのため、もっぱら固定電話を使う方が多い。 「はい、宮代です」 「お、宮代か。沢木だ」 担任の沢木先生からだった。 「どうしたんですか?」 「今朝、幸野を保健室に連れて行ってくれたよな?」 「はい」 「その時、幸野に何か変わった様子は無かったか?」 幸野さんに、何かあったのだろうか?確かにずいぶん具合が悪そうではあったけれど……。 「うーん、だいぶ具合が悪そうに見えましたけど。特に変わったところは……」 「何でもいい、どんな小さなことでも良い。本当に何も無いか?」 いつもは楽観的な先生が、珍しく焦っているようだ。 もしかして、幸野さんに何か良からぬことがあったのだろうか?更に体調が悪化してしまったのだろうか。 「…そういえば」 「何だ?」 「保健室に行ったんだけど、保健の先生がいなかったから呼びに行こうとしたんですけど、幸野さんに“行かないで”って言われました…」 「“行かないで”?」 「えーと、誰か来るまで保健室に居てほしいとも言 ってました。何だか一人きりになるのを怖がっていたような……気がしました」 「……」 電話の向こうで、かすかだが息を飲むような音が聞こえた。 「先生?」 「……あ、ああ」 「幸野さん、もしかして本格的に体調良くないんですか?すごく辛そうだったし……」 少し日本語がおかしくなった気もしないが、それより先生の様子が変なのが気になる。 「…………宮代」 一瞬、ヒヤリとした。先生の声が今まで聞いたことが無いほど低く、暗かった。 「はい?」 「幸野の携帯に、着信がなかったか?」
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