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私もおやつにしようと温泉饅頭に手を伸ばした、その時。
携帯ではなく、家の固定電話が鳴った。
この家は山の中なので、携帯が圏外になってしまう。そのため、もっぱら固定電話を使う方が多い。
「はい、宮代です」
「お、宮代か。沢木だ」
担任の沢木先生からだった。
「どうしたんですか?」
「今朝、幸野を保健室に連れて行ってくれたよな?」
「はい」
「その時、幸野に何か変わった様子は無かったか?」
幸野さんに、何かあったのだろうか?確かにずいぶん具合が悪そうではあったけれど……。
「うーん、だいぶ具合が悪そうに見えましたけど。特に変わったところは……」
「何でもいい、どんな小さなことでも良い。本当に何も無いか?」
いつもは楽観的な先生が、珍しく焦っているようだ。
もしかして、幸野さんに何か良からぬことがあったのだろうか?更に体調が悪化してしまったのだろうか。
「…そういえば」
「何だ?」
「保健室に行ったんだけど、保健の先生がいなかったから呼びに行こうとしたんですけど、幸野さんに“行かないで”って言われました…」
「“行かないで”?」
「えーと、誰か来るまで保健室に居てほしいとも言
ってました。何だか一人きりになるのを怖がっていたような……気がしました」
「……」
電話の向こうで、かすかだが息を飲むような音が聞こえた。
「先生?」
「……あ、ああ」
「幸野さん、もしかして本格的に体調良くないんですか?すごく辛そうだったし……」
少し日本語がおかしくなった気もしないが、それより先生の様子が変なのが気になる。
「…………宮代」
一瞬、ヒヤリとした。先生の声が今まで聞いたことが無いほど低く、暗かった。
「はい?」
「幸野の携帯に、着信がなかったか?」
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