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そういえば、確かに幸野さんの携帯が鳴っていた。
でも何故それを先生が知っているのだろうか?
あの時保健室には、私と幸野さんの2人しかいなかったハズだ。
「携帯は鳴りましたよ?幸野さんマナーモードにするの忘れてたみたいで……」
「電話か?」
「さあ……でも、プルルルっていうベル音だったから、電話かも……あれ?でも幸野さんは出なかったから、もしかしてメールなのかな?」
電話を職員室からかけているのだろうか、背後でしきりに電話のベルが飛び交っていた。
「……そうか。宮代」
先生の声は沈んでいた。
「はい」
「幸野が、行方不明になった」
「……え?」
一瞬、先生が何を言ったのかよく分からなかった。
「行方不明……?」
幸野さんが、行方不明?
「早退して、自宅で休んでいたが……母親が目を離したわずかな時間に、いなくなったそうだ」
「え……でも」
幸野さんは、体調を崩している。自力で保健室に行けなかったくらいだ。そんな体で、自分から家を出るとは考えにくい。
「まさか、誘拐……?」
「……いいか、宮代。これから俺が言うことを必ず守って欲しい」
「は、はい」
見事に声が裏返った。
「もし、今後携帯に電話がかかってきても絶対に出るな。出来たら、今すぐに携帯の電源を切れ。」
「え?」
電話に出るなって言われても、現に先生もこうして電話をかけているではないか。
でも、先生の声は冗談を言っている雰囲気ではなかった。
「お前の家には、仏壇か神棚はあるか?」
「はあ。一応、仏壇がありますけど」
「じゃあ、大丈夫だ。もし連絡するなら、自宅の固定電話を使うようにするんだ。」
仏壇や神棚が、電話に出てはいけない事と何か関係があるのか。
何故こんなことを急に言うのかいまいち理解しかねるが、荒唐無稽なことを言っているのでは無いのかもしれない。
そう半分本気で思ってしまうほど、先生の声は真に迫っている。
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