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夜が明けはじめた。
空は白み、暗く重たい濃紺の闇の帳(とばり)にも暁が覗く。
彼は酒瓶を置くと、だんだんと輪郭を取り戻し始めた町を見下ろした。
「………………」
人一人として姿が見当たらない、静寂に包まれた早朝の町。
変わらない、と感じた。
何百年経っても、町並みやそこに住む住人たちが移ろっても“何一つ”変わらない。
不意にどこからか、鶏のけたたましい鳴き声が反響する。
雄鶏より一段と甲高い夜明けを告げる声に、思わず眉をしかめた。
“牝鶏の晨(しん)”
古より、牝鶏が夜明けを告げるのは不吉の象徴とされてきた。
牝鶏――つまり女性が政治において権勢を振るうことを忌避した、当の昔に時代遅れとなった故事成語。
本来、朝の訪れを知らせるのは雄鶏である。
それは揶揄や暗揄としてではなく、生き物の営みとして。牝鶏が早朝に鳴くことは滅多に無い。ゆえに古の人々は牝鶏の鳴き声に怯え、不吉を見出だしたのだ。
不意に、隣の山の中腹にぽつりと立っている一軒家に目が止まった。
「…………」
しばらく何かを考えるように目を軽く閉じ、瓶に残った酒を飲み干す。
空になった酒瓶を足元に置くと、彼は山を下りるためにゆるゆると歩き始めた。
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