第三章 着信

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まさか、と首を振る。 マンガや小説じゃあるまいし、深読みのしすぎだ。 しかし、何となく携帯の話が気になった。先生の切羽詰まった声が、耳の奥でこだまする。 “電話に出てからでは、遅すぎる” 「……」 携帯に手を伸ばす。画面を開くと、やはりいつも通り圏外の表示になっていた。 電話に出るなと言われても、かかってこなければ出ようが無い。 それに外出禁止令でこの家から出ない以上、電波の届かない携帯は電卓機能くらいしか使えない。 「あれだけ言われたんだし、一応」 切っておくことにした。 電源は切ったが、一応充電器に差し込んでおく。 「先生、何て言ってたんだい?」 「うちのクラスの女の子が、行方不明になったんだって」 あらあら、とばあちゃんが年寄りくさく嘆息する。 「物騒だねえ。篝ちゃんも知ってる子?」 「うん。幸野弥生さんっていう子」 篝ちゃんの前の席に座っていた、真面目でおとなしそうな子だろう、と婆ちゃんが言う。 授業参観で1回見ただけなのに、恐るべき記憶力だ。 「ほら、やっぱりシュテンさんに居てもらうことにして正解でしょ」 何故そこにたどり着くのか。 大体、あの半裸男は用心棒が勤まるほど強いのどうか分からないというのに。
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