―暗殺者―

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「助けてくれ!」 深夜、ビルの脇にある細い露地に、恐怖で掠れた中年男性の声が虚しく響く。 辺りに人気は無く男の訴えに答える者は居ない。 「ハァ、ハァ」 荒々しい呼吸で男は走る。 ガッ 「あぁっ」 男は道端の小石につまずき、バタっと力無く倒れる。 コツ、コツ、コツ……静かに足音が男に近ずいてくる。男は足音のする方を振り返った。 そこには黒い短髪で小柄な全身黒いライダースーツのような服装の少年が立っている。 「金はいくらでも払う!だから命だけは助けてくれ!」 男は小さく丸まるように土下座しながら震えた声で懇願する。 だが返答は無い。 男は恐る恐る少年の顔を覗き込んだ。 すると、うっすらとした月明かりで顔が映し出される。 整った目鼻立ち、感情が全く感じられない冷たい瞳がただ男を見つめる。 視線を下に移すと少年の手には大型のサバイバルナイフが握られている。 刃に月明かりが反射し、男の顔を不気味に照らす。 「あわぁあ」 唇が震え、言葉にならない声が漏れ、額には冷や汗が吹き出している。 少年は男目掛け猛スピードで走り出す。 照らされたナイフの光の残像が一直線に男を襲う。 ドスッと重く低い音が響く。 男の腹部にナイフの刃が半分くらい刺さり、血が滲み出る。 「うぅぅ」 男は刺された部分を抑えながらうめき声を上げ悶える。 少年はナイフを握る手に力を入れ、力いっぱいナイフを横にスライドさする。 ブシュゥと勢いよく腹部から血が吹き出し、白いワイシャツを真紅に染め、血飛沫が舞い地面を濡らす。 返り血が少年の頬に数滴付着するが、眉一つ動かず悶え苦しむ男をただジッと見つめている。 「ぐぁぁぁ!!」 男は険しい表情を浮かべながら断末魔の叫びを上げ倒れる。 少年は男の腹部からナイフを引き抜く。ナイフは生温かい血がベットリ付着していて刃先から血が滴り落ちている。 少年は頬に着いた返り血を手で拭い、そして呟く 「任務完了……」 そう呟くと少年は闇の中に消えていった。
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