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「感覚が遮断されるってのは、そんなにも辛いことなんですか」
僕は小指に聞いてみた。
「ああ。まだ、苦痛が感じられるほうが、無感覚より良いかもしれない。人間にとって無感覚ほどの毒はない。俗物君は、『この世界でもっとも不味い物』は何か、知っているかな?」
僕は納豆が嫌いだが。納豆はもっとも不味い食べ物とは言い難い気がする。あのネバる腐り豆が好きな人は多いし。
「わかりません」
「蒸留水さ。一切の不純物を除いた水だ。これは全く味がしない。通常、水の味というのはごくわずかに混ざるミネラルや何かの味なのだよ。蒸留水にはそれがない。ほんのり暖かい完全な蒸留水を飲んだ時の気分といったら…無条件の吐き気。それ以外にはない」
「『味がしないこと』がもっとも不味い味付けなわけですか」
「ああ。今少女は、体中『味がしない』状態だ。味覚だけでなく、すべての感覚が吐き気を訴えている状態だ。その辛さ、少しは想像つくかね?」
「あーああああああーぁぁぁおーぉぉー」
少女の静かな悲鳴。
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