自殺とロマン

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「う…うん…」 後部座席からうめき声。気絶した少女だ。小指が後ろを振り向き、少女が意識を取り戻していないことを確認した。 「小指さん、誘拐ですか?」 小指は馬鹿にしたように言う。 「貧弱な想像力だな。だから君は俗物君なのだ。私が誘拐などといった、使い古された下らないロマンを求めるものか」 「じゃあ何をするつもりですか」 「俗物君は黙って見ていろ」 「わかりました」 聞いても小指は答えてくれないだろう、そんな雰囲気があった。それっきり、僕と小指は会話をしなかった。小指は黙々と運転を続け、僕は流れる景色を見ていた。 やがて車は、大きなビルの地下駐車場へと滑り込んだ。
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