自殺とロマン

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「脳は外界からの刺激によって思考するのだ。刺激がないと存在できない。少女は、最初は声を出してみたり、暴れてみたりして刺激を作りだそうとするだろう。しかし、無駄だ。さるぐつわをかんでいて声は出せない、暴れても限度がある。すると、どうなると思う?」 小指はもはや、少女をリサと呼ばなくなっていた。 「少女の脳が、勝手に刺激を『作り出す』んだ。つまり幻聴、妄想、幻覚のたぐいさ。もはや少女は現実世界ではなく、妄想世界で生きるようになっていく」 「これはいわゆる胎内の赤子や、寝たきり老人に似た思考状態と言える。さらにそれが進むとどうなるか。脳は幻覚を際限なく作り出し…そして、頭の中は幻覚でいっぱいになる。現実世界での記憶が消滅してゆく。というか、現実と妄想の区別がつかなくなるんだ。自分が何者なのか、わからなくなってゆく。人格破壊だよ」 わかった。小指がリサと呼ばず、少女と呼ぶのは…。あの少女が、やがて「リサ」ではなくなるからなのだろう。
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