自殺とロマン

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小指は少女の新しい名前を一生懸命考えているようだった。僕は、ぼんやりとテレビ画面に映る少女の姿を見ていた。 「ああああああぁぁぁぁーああああああぁぁぁぁーあぁぁおああおおぉあああ」 少女が不気味な声をあげはじめる。緊迫感のない悲鳴、眠そうな絶叫。ゆっくりと、太く絞り出される奇妙な叫びだ。 「気がついたようだな」 「ああああああぁぁぁぁーぉぉおおーおーぉーぉーおー」 「少女は今、感覚が存在しない恐怖に心底震えている。ああして、音という刺激を作りだそうとしているのだ。しかしその声も耳栓で完全には届かない。聴覚に霞がかかったような中で、しまいには声を出しているかどうかもわからなくなる…」 冷静に語る小指は、少し笑っているように見える。 「ぉぉおおーおーぉーぉーおーあーああああああーぁぁぁ」 「あれは人格が壊れる音だ」 テレビ画面を見つめながら、小指の目はキラキラと輝いていた。
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