自殺とロマン

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「新しい人格を作り直す時、普通の人格を作っても面白くないと思っていたところだ」 小指はパタン、と手帳を閉じて僕に返した。 「私は彼女を人間でなく『紫』として育てよう。紫という人格を形成させよう。それがリサの望みなのだから。さあ、これは人類初の試みではないかな?人間を『色』として育てることはできるのか…。実に面白くなってきた!彼女は生まれ変わって、紫になるんだ!これこそ自己実現のための自殺だ。前向きな自殺。ポジティヴ自殺。夢を叶えるため自殺。素晴らしい。ロマンだね」 小指の興奮っぷりたるや、見ていられぬほどだ。無条件で逮捕されてもおかしくないくらいのはしゃぎっぷり。 「俗物君、君は死んだ後、なりたいものはあるかな?キリンかい?猫かい?それともキンモクセイやサナダ虫かな?安心したまえ、私にまかせればどんな人格でも作ってあげるから」 冗談じゃない。サナダ虫の人格を持った人間を想像して、僕は気分が悪くなった。
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