37209人が本棚に入れています
本棚に追加
一年前、ビルの屋上であいつと出会った。
風が僕の横を吹く。
眼下の世界を見下ろしながら、僕の心は安らかだった。もうすぐこの世界からオサラバできると思うと、何とも爽やかな気分だ。
ふと気付く。屋上に男が現れた。僕を見ると静かに挨拶した。
「こんにちは。君の自殺は、誰に対しての自己主張かな?」
妙な質問だな。僕は答える。
「別に。この社会が嫌いなんだ」
「…ふうん。オリジナリティに欠けるね。つまらん」
男は手にしたサンドイッチの袋を開け、食べ始めた。
僕は聞いた。
「止めないのか?」
僕の体は高層ビルの屋上、フェンスを超えて外側だ。要するにあと一歩踏み出せば。落下、粉砕、死亡、である。
サンドイッチを食べる男は、その僕の状況に対しあまりに無関心だ。
「止めてほしいのか?」
男の言葉は、僕の心に刺さった。はたして、自殺を止めてほしいのだろうか僕は。
「…わからない」
「あっそ」
その男はつまらなそうに、言った。
最初のコメントを投稿しよう!