なぜ小指は曲がるのか

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アミが話してくれた病名を、さくは忘れてしまった。覚えたのは、アミは視界がどんどん狭まってゆく難病を患っていること。一年ほど前から、縦に細長い、針のような視界で世界を見るような段階にまで至っていること。 …そしていつかは必ず失明すること。 狭まる視界は少女の恐怖と絶望を煽る。 絵が好きだった。もう描けない。見れない。映画が好きだった。もう見れない。漫画が好きだった、好きな雑誌があった、好きな人がいた、あの横顔が好きだった、好きな花があった、咲く季節には楽しみにしていた、好きな夕焼け、青空、桜、もう見れない、見れない。 自殺したかった。できない。生きたい。怖い。ある日手首を裂いてみた。家族が心配する。でも気持ちは通じない。自殺したいわけじゃないの。でもとても怖いの。助けて欲しいの、自分でもなぜ手首を切ったかわからないの!嫌だよう、嫌だよう…。こんなの、嫌なんだよう… リスカ。メンヘル。異常。まさかうちの娘がこんなことになるなんて。教育を失敗したかしら…。的はずれな心配。わかってくれない。イライラがつのり、喧嘩。家出。自分でも混乱状態。パニック。 生活は崩壊した。酒、ドラッグ、セックスに溺れ。学校や家を避けた。
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