なぜ小指は曲がるのか

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「のどかだな。木の死体を拾って遊ぶ子供。木の枝は、人間に例えるなら腕だ。枝は腕だ。人間の死体から、腕を拾って遊ぶ光景を想像してみたまえ。だんだん嫌な気分になってくるだろう?」 「枝が腕ですって?しかし…」 小指がまたわけのわからないことを言い出した。相変わらずひねくれた人だ。 「子供は枝を、生きている木から折り取ることもある。そのへんに立っている人間の腕を、遊びに使うためにちぎり取ると想像したまえ。なんて残虐なのだろう。腕を集めて燃料にしたりもするな。薪だ。腕で家を作ったりもする。ログハウス。家が死体の腕で作られている異常に、誰も気付かない。この独特のにおいがいいね、とか言ってる。腕のにおいをな」 「…木と人間は違います!」 「自分以外の他者という意味で、本質的には同じだ。抵抗できない他者から搾取する、無垢な非道。いじめだって似たようなもんじゃないか?違うか?」 いじめ。確かにいじめは、いつだって他者から搾取する。相手が傷ついているその痛みを、究極的には理解できない。それは、木が枝を取られる痛みを、僕たちが理解できないのと同じなのか…。 小指は続ける。 「要するに、私たちはそういう世界にいるんだ。我々はエゴによってしか動かない。これを理解しなければならない」
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