なぜ小指は曲がるのか

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小指の考えはシンプルかつ、退廃的だ。地球上のすべての人間が、そのような考えに取り付かれたら。 「搾取するのは当然」という考えを持ったら…。 人類は簡単に滅びてしまうはずだ。 小指の考え方はただひねくれているだけではないか? 現実味を欠いた空想にすぎないのではないか? 確かに人間は他者から搾取する。しかし逆に助けることもあるではないか。他人を助けたい気持ち。愛。情。時に自らを犠牲にしてまで他者を救う力。 この存在を、どう説明する。小指の理論では、説明できないのでは? 「―小指さん。その考え方は、素直に受け入れられません。だって人間には、搾取ではない、愛情という…」 「愛は搾取だ」 僕の反論を、小指がぴしゃりとさえぎる。まるで僕の反論を予想していたかのように。 小指は夕日をバックにして、言葉を続ける。 「…これからの話を聞くと、君は死にたくなるかもしれない。もしくは理解できないかもしれない。また、完全に理解すれば、私のように悟りきった気持ちになれるかもしれない。…そうすれば新聞記事の殺人事件など…『どうでもいいこと』に感じられる」 小指が一歩、前に出る。 「私の愛に対する考えを、聞かせてあげよう」 逆光で黒く映える小指のシルエットは まるで死神。
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