なぜ小指は曲がるのか

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「君は、僕の話が正しいことに、もう気付きはじめているはずだ」 さくの話は続く。 「仮に、愛が至高の存在で、絶対的なものだとしたら…戦争なんか起こらない、そうだろう?」 振りやまぬ雪のように。さくの話は続く。 「愛を崇めていると言ってもよい宗教でさえ、戦争につながる。わかるか?自分に不利になるのなら、愛は簡単に機能停止できる、そういう能力なんだ。 猫は、いつも鋭い爪を出しているわけじゃないだろう?用途に応じて出し入れする。人間も同じ。自分に都合のいい時だけ、愛を使い、自分に不利な時は使わない。生まれた子供を愛さない親。金のために仲間を裏切る友。恋人を騙す男。いくらでも例はあげられる。 愛は、自分にメリットがある時にだけ発動し。デメリットが上回る時には発動しない。そういう、利己的な感情にすぎない。『愛は国境を超える』なんて、むなしいコピーだよ。超える時と超えない時がある、という前提を忘れて、愛が完璧なもののように勘違いしている。 時々あげられる、自己犠牲的な愛についても解析しよう。自らの命を捧げても誰かを守る現象だ。 これは愛の素晴らしさを証明する行為として、もっともらしく主張されることが多いのだが…。果たしてそうかな。僕には解釈が二つある。一つは判断ミスという観点から。もう一つは遺伝子保存論の観点からだ」 押し寄せる氷河のように。さくの話は続く。
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