自殺とロマン

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「世界は五秒前にできたかもしれないってことさ!笑えるだろ?人間が積み上げてきた歴史、知識、そのすべてが五秒前に『偶然』生まれたものかもしれないのさ…。この世界はその程度の価値しかないのさ。分子の偶然、それだけ」 男は話しながら、サンドイッチを包んでいたビニールのゴミを丸めた。 「そして君は、そんな下らない世界で自殺しようとしている」 男はポイッと、ゴミをビルから投げ捨てた。ゴミは落下し、あっという間に視界から消えさる。 「五秒前にできたかもしれない世界で自殺か。本当に笑える。どうせならもう少し面白い自殺をしたらどうなんだい?ビルから飛び下りとか、使い古されてるだろ。過去に何人そうやって死んだことか。著作権侵害みたいなものだよ。君は死ぬなら、面白い死に方を考えるべきだ。それが君の、義務だ」 男の言葉は終始物静かで、落ち着いていた。しかしその内容は、常軌を逸していた。奇妙な説得力と、不気味な発想に満ちていた。
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