自殺とロマン

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「面白い死に方ができないようなら、自殺なんかしても無意味じゃないか」 男は笑っている。僕は聞いた。 「…あなたは、僕の自殺を止めようとしてるんですか?」 「ああ。今日から一緒に君が自殺する方法、最高に面白い自殺の方法を探そう。ついてきたまえ」 「あなたについていくことに何かメリットがあるんですか」 「君にはない。私にはある。暇潰しになるというメリットがな。不満かい?」 男はまっすぐに僕の目を見ている。冗談を言っているようには見えない。綺麗な澄んだ目だ。 「…いえ」 なぜ僕がそこで自殺をやめたのかはわからない。ただ、男の話は、奇妙な魅力に満ちていた。この男の話をもっと聞きたい。少し自殺を先延ばしにして、この男についていってみよう。そんな気持ちだった。 男は僕に向けて「おいでおいで」の仕草をする。その右手には特徴があった。右手の小指が、外側にぐにゃり、と曲がっていたのだ。 心の中で僕は、男を「小指」と名付けた。
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