自殺とロマン

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「自殺と言ってもなかなか難しい」 小指は僕に背を向け、歩きながら言う。 「電車に飛び込めば、車輪の数だけギロチンのオンパレード。首吊りは排泄物が穴と言う穴からはみ出て汚らしい。水死は悲惨だ。浸透圧で、周りが海水ならば干からびたみたいになるし、淡水ならばぶくぶくに膨れて目もあてられない」 気持ち悪いことを平気で言う奴だ。 「詳しいんですね」 「たくさん見ているからね」 ビルの階段を一階まで降りると小指が言った。 「さて、とりあえず私の家に行こうか。そして話そう。私の車に乗りたまえ」 小指は小綺麗な車を指差した。白いカムリ。古いが庶民的な車だ。小指がドアを開け、僕は素直に乗り込む。 小指はそれを確認し、落ち着いた足取りで大通りのほうへ歩いていった。 何をするつもりだろう。 僕はぼんやり、その姿を見ていた。
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