―Smile―

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結局、謝る事ができずにバイトの時間が終わってしまい、更にサクは先に帰ってしまっていた。 居残りで作業をさせられていた俺は、急いで後を追いかけた。 謝りたい、その一心で。 昨日の公園の角を曲がった時、ようやくサクの姿を発見した。 「サク!!」 叫んで呼び止める。 足を止め、振り返る様子を走りながら確認する。 「どうした?そんなに慌てて」 声の調子は普段通り、怒っている様子はなさそうだ。 「今日はごめんっ!!嫌なこと言って…。怒るのは当然で無理もないんだけど、俺も八つ当たりしちゃって、申し訳なくて、だから…つまり…」 息を切らしながら、自分でも何が言いたいのか分からなくなってきた。 だが、収拾もつかない。 突然、サクが笑い出した。 「気にしてないよ。てか、お前何言いたいか全然分かんね~。日本語下手」 言われたくないけどね、日本語下手とか。 とにかく、俺の謝罪は通じたようだ。 一連の小事件が解決し、ようやく平穏を取り戻した。 あ、気になる事がもう一つあったんだ。 「なぁ、サク。本当に熱ないんだよな?もし辛いんだったら、俺は大丈夫だから休みもらった方がいいんじゃ…」 「居場所を取るなよ…」 どことなく、寂しそうに小さく呟いた。 「平気だよ。丈夫だけが取り柄だから」 笑いながら…それが何故か痛々しく感じた。 「あ、でも牛乳飲んだ所為かお腹痛くなってきた…。悪いけど急ぐから、じゃ、また明日な」 「ああ、また明日…」 お腹をおさえて足早にサクは帰って行った。 俺は呆気にとられて、呆然とその姿を見送った。 広瀬朔評論家の言った事はただしかった。 牛乳を飲むとお腹が痛くなる。 新生物の謎の生態に確証を持つ。 しかし、また一つの謎も生まれた。 『居場所を取るな』と言ったサクの真意は何だったんだろう。 テスト休みまであと一日。 .
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