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しばらくして、ようやく落ち着いたサクが俺の肩によしかかってきた。
相変わらずベンチに対して横向きで体育座りの姿勢だ。
「悪いんだけどさ、もう少しの間だけ…こうしててもいい?」
初めてサクが甘えてきた。
「気が済むまでこうしててやるよ」
多分、恋とか愛じゃない。
何ていう名前の感情なのかは分からない。
それでも構わない。
ただ、嬉しかった。
その十数分後、俺たちはお互いの家に帰ろうと温かくなったベンチから立ち上がった。
大きな瞳が赤くなっていた他は、いつものサクに戻っていた。
「俺さ、視力二・0なんだよね」
「は?」
いつも突拍子のない事を言うのはサクの役目だが、今度は俺が真似して言ってみる。
「だからよく見えるの、サクの事」
大きな瞳がいまいちよく分からないと訴えていた。
「隠しても無駄だからな。もう嘘の笑顔は見破ったから、バレバレだぞ」
勝ち誇ったかのように笑いながら宣言する俺に、サクはいつものイタズラっぽい笑顔を見せた。
「野生児」
「何とでも言え」
何気ない、いつもの会話。
「じゃあな。人の心配するより、自分の心配もした方がいいぞ」
憎まれ口も復活したようだ。
今の今まですっかり忘れていたテストの事を思い出させてくれた分、一枚上手だ。
現実の厳しさも思い出した俺の後ろから、サクが叫んだ。
「ありがとな!!」
その一言が俺に元気をくれた。
やはりサクには敵わない。
明日から勉強地獄とテスト地獄が始まる。
でも今の俺は何にも負けない自信がある。
かかってきやがれっ!!
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