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帰る時間になってもまだ雨は降っていた。
日中に比べると小降りになっていたのがせめてもの救いだった。
濡れないように体を小さくして、水溜まりに入らないように足元に注意しながら歩く。
視界が狭くなっているので前方にも気をつけて。
雨の音はうるさいのに、静かだ。
自然の力だろうか、心が落ち着いてきてるのが分かる。
何気なく顔を上げると、今まで視界に入らなかった景色が映った。
アパート近くの公園の横を通り過ぎる所だった。
もう何年も公園で遊んでいない。
ブランコとか懐かしいな…。
そう思ってそちらに目をやると、人影が見えた。
こんな夜に遊んでいるわけはない、しかも雨…傘も差していない。
変な奴が居るなと思った瞬間、驚いた。
サクだ。
ずぶ濡れでブランコに座り、空を仰いでいる。
『変な奴』の正体を知り、納得するやら呆れるやら…。
「何やってんだよ?こんな日に」
サクに傘を差し出しながら声をかけると、別段驚いた様子もなく普通に返答が返ってきた。
「おお、ユキ。お疲れ~」
「お疲れ…じゃなくて…」
それ以外言う事ないのか、お前は…。
「ずぶ濡れだぞ」
「雨だからね」
そうだけど…。
いつでもマイペースなサク。
程があるぞ、程が…。
「風邪ひくぞ、帰ろうぜ」
「ん~…」
ため息まじりで家へと促すが、一向に動く気配はない。
「先に帰りなよ、勉強あるでしょ?」
「嫌な事思い出させるなよ…。って、サクは?」
「気持ちいいからもう少しココに居る」
薄く笑うサク。
何か変だ。
否、元々変な奴ではあるけど…。
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