5人が本棚に入れています
本棚に追加
「…何かあったのか?」
問いかけながら隣のブランコに座る。
サクに差し出した傘は、受け取る気がないらしいのでたたんでしまった。
俺もサクも、これだけ濡れてしまっているので今更変わりはしないだろう。
「何も」
俺の心配を余所に平然と答えるサク。
「ただ本当に気持ちいいだけ。濡れるの気にしないのって子供の頃以来だから、久しぶりでさ」
いつもと変わらず笑うサク。
―――でも『何か』が違う。
「ユキこそ風邪ひくから帰りなよ」
逆に心配されてしまった。
「大丈夫、バカだから」
豪語する事ではないのだが…。
ここまできたら意地でも帰らない!
てっきり笑うだろうと思っていたのだが、返ってきた言葉は予想外のものだった。
「バカは風邪ひかないんじゃなくて、体調管理のできない馬鹿が風邪ひくんだよ」
…なるほど。
納得してしまって、ようやく気づく。
「つまり、ソレってやっぱり俺はバカって事?」
言いながら横を見ると、サクがイタズラっぽく笑っていた。
その顔を見て少しホッとした。
いつものサクだ。
「さて、帰りますか。本当に風邪ひかれても困るしさ」
にぃっと笑いながら立ち上がったサクに続いて体を起こす。
もう髪から水滴が滴っている。
サクはそれを犬のように頭を振って飛ばしてきた。
俺もやり返したり、じゃれつきながら家路についた。
あんなに浮かなかった筈の気持ちが、天気とは逆に晴れてきているのが分かる。
これなら雨の日も悪くない。
テスト休みまであと二日。
.
最初のコメントを投稿しよう!