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 彼は、自分がいつ産まれたのかを知らない。自分に幼少期があったのかも覚えていない。  彼はただ、気付いたらそこにいた。  白い壁、白い床、白い椅子に、白い服を着た自分。 「はい、次の人」 呼ばれて立ち上がり、白い長テーブルに腰掛けて、名簿をチェックする女性の前へ進む。 「身長、体重、性別。順に答えて下さい」 「はい…えーと、身長は176cm、体重は75kg、男…です」 つい先程、流れに沿って測定して来た数値を答える。 「はい。ではこのチケットを持って次のテーブルへ」 「…はい」 何だか分からないが、次があるらしい。  ピンク色のチケットを手に、流れに沿って先へ進む。彼の他にも沢山の人が列を成していた。  同じく白い服を着て、ピンクのチケットを手にしている。ぼんやりと待っていると、ややあって順番が回って来た。 「チケットを下さい。はい、どうも。10-3番ね」  テーブルに着席している人は男性だった。 10-3とぶつぶつ言いながら、手元の本をぱらぱら捲っている。 「あった。えーと…ふむ」 男性は本を見ながら手元の用紙に何かを書き付け、それをぼんやりと立ち尽くす彼へと差し出した。 「あなたの身分証明書(仮)です」 手渡された用紙を見る。  一番上には身分証明書と明記されており、氏名の欄には『シキ』と書かれていた。 「…シキ…?」 「はい。あなたの名前です。それを持ってあの部屋へ入って下さい。説明会を聴講した後、身分証明書のカードが貰えます。その用紙と引き換えですから、汚したり、握り潰したり、破いたりしないで下さいね」 「…はい」 すぐそこまでの距離を行く間にどうしたら汚したり出来るのだろうなどと思いながら、彼、シキは指示された部屋へふらりと向かった。  部屋の中は先程居た場所と変わらない。一面が白く、並べられた椅子には20人程がすでに座っていた。  シキの背後でドアが閉まる。どうやら自分が最後の聴講者だったようだ。  彼は、手近にある椅子に腰掛ける。 「揃ったようですので、説明会を開始します」  いつの間にか部屋の正面に女性が立っていた。image=408626042.jpg
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