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『日常』
校内で1番の身長の低さ。凜とした黒髪。童顔で愛くるしい笑顔。いわずともしれなた遠野高校校長--久里浜モグ太。
その校長先生の流れるような筆が止まった。
開ききった窓の災い。校長先生が記入していた書類の束が、いく筋の風の道にさらわれた。
それを見た生徒たちが、単音を響かせて天井を見上げた。
「あ~、校長先生、邪魔しないでよね。もう。飛行船のビラチラシじゃあるまいし」
「ごめんなのだよ」
風に踊る紙切れに十指の指が踊る。真っ白な用紙に手がかかった。
「ちょっと待て。なんで校長、自分で集めないの? なんでニヤニヤしながら見てるんだよ」
「下々の仕事だからなのだよ」
ニヤニヤ顔を崩さずに校長先生は言いきった。
「おまえ~!!」
そう言いつつ下々の働きで、生徒が用紙を手渡した。用紙がクシャっとしたのは無意識にだろう。
「ほらほら、じゃあ皆さん授業に戻りますよ。集中して~」
先生が号令をかけると、生徒たちが黒板に向き直る。教室に穏やかな波が戻った。
「あっ、スマンなのだよ」
また風によって書類が舞った。
「もういいかげん校長室に帰れよ!!」
校長先生が教室に住み着いてもう三ヶ月も経っていた……。
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