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『朝寝坊』
「どうして母さん、起こしてくれなかったのさ」
慌てて家から飛び出す啓太。時刻が8時40分を回っていた。普通に歩いても学校まで20分かかる。気合いを入れなければ遅刻になってしまう。
「よっ啓太。マラソンか?」
自転車に乗った東吾が並走する。
「そういう風に見えるか」
「見えるな~」
東吾が、額の汗ばんでいる啓太を見てニヤニヤする。
「乗せろ」
「やだよ~ん。間に合うといいねー」
東吾がひとこぎに力を入れると、一気に啓太との距離が開いた。
「薄情者~」
東吾の背に啓太の恨み言葉が響いた。かくなるうえは自分の体力を信じるしかない。痛くなった脇腹に鞭打つ啓太。だが、呼吸はもう絶え絶えだった。
隣でハーレーが緩やかに進んでいた。
「むう、啓太か。どうしたのだよ」
小さめのヘルメットを被った校長先生が声をかける。
「いや、寝坊しちゃって」
「後ろに乗るのだよ」
興味があるので啓太は乗り込んだ。なんだか少し怖いが楽しい。風を体感して啓太は大喜びする。
ウ~ウ~。
「そこの少年。すぐにバイクから下りなさい」
「20越えてるのだよ。ちっ面倒くさいな。まくのだよ」
「まくってどういうこと……だあああああああああ」
言葉で返すよりも先にバイクがスピードがあがった。
そして学校に着いたのが9時50分。
お巡りさんにこってり絞られて遅刻した。
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