時は動きだした

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朝早くに電車に乗り、ラッシュの中を十分くらいで降りる。そして駅からほど近い場所にあるドラッグストアのシャッターを開ける。 それが私の普段の毎日だ。 アルバイトの子たちと開店の準備を進める。バイトの子たちは納品されている品物を棚に並べていく。その間に私は金庫を数え、レジの用意を済ませる。開店十分前になるとシャッターを開け、お客を迎え入れる。 「いらっしゃいませ。」 そうこれが私の普段の生活。表の生活。 「おはよう、宮野さん。いつもの胃薬が欲しいのだけどけ。」 「いらっしゃいませ、松岡さん。また胃が痛むんですか?一度病院に行ってみたほうがいいですよ。しっかり原因を突き止めたほうがいい。」 「そうね、こう続くと心配になるわよね。時間があるときに一度行ってみるわ。」 その言葉に優しく微笑むとお客も安心したように笑った。 これで一安心だと感じた。 市販薬を飲んだからと言って病気が治るわけではない。だからこそ病院に行くように進めるのだ。 「貴方の笑顔を見るとそれだけで安心出来るのよね。」 「ありがとうございます。」 出来るだけ一人一人に対して丁寧に対応する。 「本当に宮野さんはお客さんに人気だよね。まぁ、宮野さんの接客は丁寧だからね。」 「そんなことないよ。私は私の出来ることしかしてないもん。」 一日にたくさんのお客さんが店に来る。その全員の顔を覚えることは無理に近い。それでも出来るだけ覚えるように勤めている。こんな私を好きだと言ってくれる人たちを。 本当の私はみんなに好きと言ってもらえるような人間ではないのに。 「今日も一日終わったね。疲れたぁ。」 「お疲れ様でした。」 私は鳴り続けていた携帯に表示されている名を見て眉間に皺を寄せた。その表情をすぐに戻すと素早く着替えて事務所を出た。 「じゃ、お先に失礼します。」
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