三日月夜想曲

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 夜が来れば、三日月亭に活気が集う。三日月亭は、ネフティス夜皇国の首都ヴェリタス付近の村にある酒場だ。  活気は、誰が呼ぶわけでも無く、誰が拒むわけでも無い。  今宵も住民が集まり、酒を酌み交わし、騒ぐ。  ルナは、その光景が大嫌いであり、大好きだった。  この三日月亭が、故郷にあれば良かったのにと、何時も思う。  然し、この地はイストリアにあったルナの故郷を焼いた軍勢が居る土地であった。ルナは、十一歳の時に、ネフティスへと送り込まれ、踊り子として情報を集めている。  ルナをネフティス夜皇国へと送り込んだ男は、竜騎隊の隊長だった。竜騎隊の隊長は、南に進軍している。そんな彼が、現在、興味を示しているのは、不死の力と言われるものであった。  なんでも、ネフティスでは死んだ人間が生き返り、不死の力を得るという。ルナもその事実を探すため、街の裏路地や異端街などに探りを入れているが、結果は散々だった。然し、この三日月亭なら、何か聞けるのではないかと密かに思っている。  ルナは、賑やかな酒場の風景に、グラスを傾ける。グラスの中では、透き通った麦酒が、氷を溶かす。少し苦みのある酒で、北から運ばれて来たものであった。  皿に盛られた摘みは、チーズと鶏肉を火で炙ったものだ。鶏肉は、腿肉を塩と胡椒で味付けしバターで焼いたものだ。店内には、香ばしい匂いが、漂う。その中で、ルナは、酒を嘗めながら、周囲の話にそば耳を立てた。
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