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今日もたわいない雑談ばかりだ。取り立てて、身を乗り出すようなものは無い。ただ、騒がしいだけだった。どこかで囚人が逃げ出したとか、昔話を英雄気取りで話す傭兵やらが居るだけだ。
此処が、ネフティス夜皇国ではなくイストリアであったなら。ルナにしてみれば、それほど悔しいことはない。しかし、軍人は嫌いだが、民は嫌いではなかった。ルナの素性を知らないからなのか、何かと世話をしてくれる。
三日月亭の亭主が、良い例だ。踊り子としての仕事をくれる。馬小屋を改築して部屋にして住み込みで働くことを許してくれた。今では常連達もルナに声を掛けてくれる。ルナが嫌いなのは軍と傭兵達だけであった。ルナは、酒を呑みつつ、摘みのチーズを口にする。
ネフティスとイストリアは、現在対立中だ。あちらこちらで戦をしているので、旅人からは、色々な噂が飛び交っている。例えば、ふたつの国は価値観が違いすぎるだとか、実は、互いに互いを使役しようとしているだとか。まさに、政治に疎い輩が妄想だけで話を振り撒くことがある。酒の席だけに酔いが回ると誰もが発言を誤る。今日も酔っ払った傭兵が、勢いだけで喚き始める。
「西で、イストリアを撃退したのは俺だ! 頭が高い、控えろお!」
ルナの酔いも覚めた。傭兵を一瞥して外に出る。真夜中の空には、綺麗な星が並んでいた。ルナは、星空だけは、イストリアと同じだと思う。
同じ空の下に居ながら、何故争うのかと疑問さえ感じる程、美しい星空であった。
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