三日月夜想曲

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 今日は、非番だ。ルナの頭に、鳩が飛来する。ルナが飼っている鳩だ。夜も飛べるのではなく、馬小屋から、亭の明かりを便りに飛んできたのだ。夜も飛べる梟も飼いたかったが、野性の梟を捕まえるのは至難の業だったので諦めた過去がある。  今しがた飛来した鳩は、ルナが、イストリアからネフティスへと侵入して、何羽目かも解らない。然し、今回は卵から手塩に育てた鳩だ。名前は付けていない。名前を付けると愛着が湧くからだ。  昔、飼っていた鳩は、イストリアとの連絡がばれそうになり、何度か殺した。今の鳩は数年前、番(つがい)となった鳩が、産み落とした命だ。頭の上から両手で鳩を救う。つぶらな瞳の真っ白な鳩だ。足に手紙を取り付ける小さな容器が取り付けてある。ただ、鳩をイストリアに居る部隊に飛ばすのは、緊急時だけでイストリアの調査本部からの連絡は先ず無い。  イストリアが、今現在、どのような境遇なのか、ルナは知らない。ルナは、三日月亭の中に戻ろうとした。鳩は、亭には連れていけない。一旦、空に放して寝床に向かわせる。馬小屋の梁の上が鳩の寝床だった。  ルナが、亭に戻ると、亭主が雇人と何事かを話していた。ルナは、足を止めずに二人に会釈だけして通り過ぎる。読唇術なら得意だ。先ほど騒いでいた傭兵が、何やら無理難題を吹き掛けたらしい。雇人が、困ったように俯いていた。  ルナは、酒を煽る傭兵に近寄る。
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