一章 鬼死還

3/8
前へ
/254ページ
次へ
 隣部屋にはネフィス軍に勤める少将ヴァプラ・シェーシャ・マートナと中将のナフード・バラム・ダクティルが、居たのだから。二人は、数々の戦で成果をあげている。ヴァプラには、「赤雷」、ナフードには、「黒砂」の異名がある。ネフティスに住まう民なら、誰でも一度は聞いたことがある人物だ。  ルナは、一瞬にして固まった。きっと、立ち聞きも知られている。そう考えた。 「てもさ。珍しいよな。ナフが誘うなんてさ。しかも、二人きりなんて」  酒を飲んでいたヴァプラが、大袈裟に言った。 「そうか?」  対して、ナフードは、素っ気ない。 「それで? なんの御用事?」  ヴァプラが、酒を飲み干した。 「うむ。何を貰ったら嬉しいかと」  ナフードが、料理を摘む。焼き魚の香ばしい匂いが、部屋を漂う。 「は?」  ヴァプラが、怪訝な顔をする。 「いや。だから、何を贈れば喜んでくれるかと」 「何を、誰に?」  ナフードの答えにヴァプラが、食いつく。 「やはり、シェリイに聞くのが間違いだったか」 「そんなにはっきりしないのも珍しい。ナフ? 女でもできたのか?」  ヴァプラが、意地悪く問い返す。戦争中もプライベートも愛称呼び。意志疎通できるようにといつかの国王が遊びで命じた。 「できてない」
/254ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加