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着替えとタオルとサンダルを袋に詰めてまたもや家を出た刈魔。
その顔には少し疲労感が伺える。
「ふぅ…明日灯油入れてもらわねぇとな…」
温泉は少し離れた場所にあり、自転車を持っていない刈魔は歩きしか移動手段がなかった。
10分程歩いた所でなにやら声が聞こえてくる。
「なぁ俺達と遊ばねぇ?」
「こんな時間にウロウロしてるっつうことはナンパ待ちか何かだろ?」
「ねぇ~楽しいことしようぜ~」
『…アホくさ』
基本面倒事には首を突っ込まない刈魔はその場を素通りしようとしたのだが、微かに聞こえて来た声に足を止める。
「……………や……だ……」
今日はとことん彼女と縁があるらしい。
首だけナンパが行われている方向へ向けると今にも泣きそうな黒羽がいた。
その様は弱々しく、少しでも刺激すれば崩れそうな程儚く見える。
「…………」
刈魔はそっと財布から500円玉を出して指で弾いた。
そして自分がわからないように空中でキャッシュする。
『数字なら素通り、絵柄なら…』
そしてゆっくり手を開くと、絵柄が見えた。
「…はぁ…」
方向転換し、黒羽の元へ足を進める。
先に気付いたのは黒羽で、こちらを見て驚愕の表情をしていた。
「はいストップ」
「あ?なんだてめえは!?」
「楽しんでんのに邪魔すんじゃねぇよ!!」
「はぁ…」
またもやため息。
どうやら黒羽は3人の不良に囲まれていたようだ。
何度もため息を溢しながら刈魔はそっと不良の1人の腕を掴むと……片手で真上に放り投げた。
「な!?」
「お、おい!!」
「うわぁぁぁぁぁ!!」
高さはゆうに10m。
落ちてくる仲間を何とか助けようと手を上に上げて構える2人。
この僅かの間に黒羽を引っ張り、後ろに隠した。
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