40人が本棚に入れています
本棚に追加
キュイッ…!
「ん…」
鳥の囀りに目覚める僕。ふかふかの藁に身を包んだまま寝るのがとても好きなのだ。
「グルル…ガウッ!」
「ヒュルエ、おはよ」
僕の飼い犬、ヒュルエ。スコルという種だ。昔から飼っている相棒。
「またここで寝てたのか。朝メシの時間だよ」
「…兄さん」
日差しが眩しい。それはそうとも。ここは地上よりはるか高い位置に存在しているのだから。
「早くしろよ、母さんが待ってる」
僕はゆっくりとけのびしてから立ち上がった。今日も新しい1日が始まるのだ。
小屋を出てすぐ。草原を少し歩いたところにある一軒家。そこが僕の家。
ここは“楽園(エデン)”。
“神杯の雫(エリクシール)”が住む天空の世界。雲の浮かぶ高さと同じ場所に存在する浮遊大陸。
楽園は通称、方舟と呼ばれている。地上には災害が沢山あるが、方舟はそれを回避する事ができる。
昔は方舟は意思なく天空をさ迷うだけだった。しかしエリクシールの力で高低、方向、移動を自在にした。
「ヒュルエ、朝ご飯だ」
野菜やら肉やらを詰め込んだバケツ。ヒュルエは我先にと顔を埋めるようにして食べる。
「あら、起きてたのね」
綺麗な長い金髪が風に靡いている。何もかも見透かすような青く、淡い色の瞳。白く透き通るような肌。美しき母が出迎える。
「兄さんが起こしてくれてね。」
「父さんも起きてるわ。さ、早く朝ご飯にしましょう」
幸せだった。
何でもないこの日常が。
毎日が楽しみで、希望に満ち溢れていて。
家に入り、リビングへいくと朝食が用意されていた。兄さんともう1人。
短い金髪を逆立てた、屈強にして無駄のない鍛えぬかれた肉体。凛々しい顔をした父。
「おはよう、アベル」
最初のコメントを投稿しよう!