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「――というわけなんだよ」
「あらま、可哀想に」
さすがに姿を変えたりしたことなんて言うわけにはいかないから、僕が諸所に嘘を散りばめた、というか最早嘘の塊の「かくかくしかじか」を伝えたら、母さんは上の感じに同情して、簡単に彼女を家に泊めることにしてしまった。
我が親ながら、将来何かしらの詐欺に巻き込まれないか、甚だ不安である。
「にー、それ彼女?」
小学四年生になった妹はとたんにませて、そんなことを聞いてくる始末。今後の展望は、ほとんど霧に包まれている気分だった。
――そんな自分の予感は的中とまではいかずとも、案の定霧の中に数々の罠がしかけられていた。
たとえば、自分とハートの関係はなんぞやと、此れ真っ先に聞かれた。その元凶は言うまでもなくハート。どういうわけか毎朝早起きしては、僕の登校を待って一緒に行こうとするからである。挙句、転校してきた彼女は僕と同じクラス、さらに言えば後ろの席であるから、噂は噂を呼び、ついでに他クラスの連中まで呼んだ。
そして、後ろの席であるから、とにかくうるさい。先のテスト中の消しゴム貸して発言や、授業中に「分からない」と話してくること多数である。
「しかし、お前。あれだけ初心系男子気取ってたくせに、真っ先にこんな可愛い女の子を手に入れるとはね」
中学からの友人で、中学から変態で、中学から天才一直線の彼、浦山田百千万億は僕の頬を挟むと、力いっぱい締めてくる。驚くなかれ百千万億とかいてつもると読む。親は何を思ったのだろうか。
「いふぁいいふぁい」
僕の反応に満足すると、ぱっと手を放す。かくいう彼だが、実のところ女子からはそれなりの支持を得ている。何せ顔はそれなりで、頭は天下一品。唯一瑕となるのは、間違いなく性格であろう。過去にそれを言えば、「俺から変態要素を差し引けば、残るのは厭味なやつだからね。そんな嫌われそうな性格はお断り願いたいわ」と鼻で笑って一蹴してみせた。
変に屁理屈捏ねてみせるが、単に変態的所業が好きなだけなんだと思う。要は根っからの変態なのだ。
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