14人が本棚に入れています
本棚に追加
「おっすです、ご主人様」
人が天使を見るとき、それは後がない時だ。齢十五の僕には、謳歌しなければならない青春と、経験しなければならない泥臭い努力がまだ残っているはずだった。
しかし、目の前に降り立つ、赤髪の少女は間違いなく天使である。なにせ羽が生えている。輪っかの無いのが寂しいくらいだ。
「僕、いつ死んだ?」
自分の胸に手をあてがい、身の有無を確認する。確かにあった。胸があるというと誤解を生みかねないが、そのままの意味である。
ほっとした顔を見ると、少女は嬉しそうにはにかんだ。
「嫌ですね、もう。冗談はよしてくださいよ。ご主人様はこれからモテモテになるのです」
「ああ、何だ、ただの悪戯か。最近の子どもは手が込んでいるね」
思えばメイド服の天使など居てたまるか。なんだ、閻魔大王も週一で秋葉原に通う時代か? というか天使の場合は閻魔じゃないんじゃないか。
「むぅ。ご主人様、どうして無視するのです?」
こうなったら、と言う彼女を見れば、取り出したのはピンクの弓矢。弓が撓り、糸切れそうなほど引っ張ると、何に狙いを澄ましたのか、その手をぱっと離す。猛スピードで直進するかに思われた矢は、空中を二度三度回転し、僕の頭に突き刺さった。
「てへ」
少女は言った。
ちなむと僕は出血多量である。どうみても「てへ」じゃない。語尾に星を飛ばしてもだめだ。
「痛ってぇえ!」
悶絶する僕は頭を抱えて転がりまわり、地面のそこかしこに血液を飛散させた。
「ごめんなさいです。私、まだ慣れてなくて」
えへへと笑った。
最初のコメントを投稿しよう!