レンテン・ハート

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「おっすです、ご主人様」    人が天使を見るとき、それは後がない時だ。齢十五の僕には、謳歌しなければならない青春と、経験しなければならない泥臭い努力がまだ残っているはずだった。  しかし、目の前に降り立つ、赤髪の少女は間違いなく天使である。なにせ羽が生えている。輪っかの無いのが寂しいくらいだ。 「僕、いつ死んだ?」  自分の胸に手をあてがい、身の有無を確認する。確かにあった。胸があるというと誤解を生みかねないが、そのままの意味である。  ほっとした顔を見ると、少女は嬉しそうにはにかんだ。 「嫌ですね、もう。冗談はよしてくださいよ。ご主人様はこれからモテモテになるのです」 「ああ、何だ、ただの悪戯か。最近の子どもは手が込んでいるね」  思えばメイド服の天使など居てたまるか。なんだ、閻魔大王も週一で秋葉原に通う時代か? というか天使の場合は閻魔じゃないんじゃないか。 「むぅ。ご主人様、どうして無視するのです?」  こうなったら、と言う彼女を見れば、取り出したのはピンクの弓矢。弓が撓り、糸切れそうなほど引っ張ると、何に狙いを澄ましたのか、その手をぱっと離す。猛スピードで直進するかに思われた矢は、空中を二度三度回転し、僕の頭に突き刺さった。 「てへ」  少女は言った。  ちなむと僕は出血多量である。どうみても「てへ」じゃない。語尾に星を飛ばしてもだめだ。 「痛ってぇえ!」  悶絶する僕は頭を抱えて転がりまわり、地面のそこかしこに血液を飛散させた。 「ごめんなさいです。私、まだ慣れてなくて」  えへへと笑った。
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