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「大体、君は誰?」
「見ての通り、レンテンなのです」
どう見ての通りなのか分からない。そもそもレンテンとはなんぞや。
「レンテンとは所謂キューピッドちゃんです。恋愛天使、略してレンテン。振り分けられた人の恋を成就させる。それが私の使命であり、生きる糧にもなるのです」
「よくは分からないけど、つまり、僕がその、振り分けられた人ってやつなの?」
少女は無言で手を出す。そして、二つの指が、じわりじわりと天に向かって伸びてゆく。頂点に達するかどうかというところで、ぴしっと強い信念を持って立ち上がった。
「えと、ピース?」
少女はしたり顔だ。
その顔をかくかく上下に揺らす。どうやらピースとは肯定を示しているらしい。
「でも、なんで僕?」
「なぜか、ですか? それはご主人様、もちろん――」
視線の交換が行われる。少女は僕の目を見、僕は反対に彼女の澄んだ瞳の中に飛び込む。
生唾を飲み込む音が、自然と大きく感じられた。外の春風が保健室の窓を小さく揺らす。
「フィーリングなのです」
出落ちであった。
「……で、とりあえず、これは夢じゃないということにするけど、それで、僕に何をさせるつもり? 見ての通り、自分で言うのも空しいけど、なにもない冴えない男だよ」
「お忘れですか、ご主人様。これです、これ」
これとは忌々しいピンクの弓矢だった。彼女が恋のキューピッドなのだとすれば、それは疑うまでもなくキューピッドの矢とやらであろう。刺したものが好かれる身になるという。
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