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「まさかとは思うけど……」
「そのまさか、なのです、ご主人様」
その柔らかそうな頬がさらにむにょんと盛り上がる。目まで垂れるその笑顔は、赤ん坊のそれを思わせた。「ふっふっふ」とわざとらしい。
「いいですか。この弓矢は私たちレンテンにだけ許された、必殺のラブアイテムなのです」
何か卑猥、というのを寸でのところで堪えた。見かけが幼い女の子に言うものではない。
しかし、本当にいるのか、そういう存在って。
「ピンクがとってもかわいい私の弓矢でぱしゅーんと誰かを射ることで、彼も彼女も一目見ればアナタにメロメロ!」
「僕、弓矢の経験はないよ?」
「のんのんのん。弓矢を射るのは私です」
のん、のん、のん。指が一回の“のん”毎に、右に左に揺れ動く。
「で、その“アナタ”は契約で決めるのです。それからそれから、その契約のための儀式があるのです」
一息に言い切るとその小さな羽を必死に羽ばたかせ、ついと僕の顔に、彼女の顔を近づかせてきた。
指を立て、おちょぼ口の横に並べる。
「いいですか。言ったようにこれは契約です。もちろん命をとるなんて、死神のオジサマみたいなことはしませんけれども、条件があるのです」
指が、彼女の口の前に立ちふさがる。そう、小さい子を静かにさせるように。「一つだけ」と吐息を思わせる小さな声で。
「誰にもこのことを言わない。簡単でしょう?」
「ふっふっふーん」と、神妙な顔つきから一転、彼女は空中をくるくる回って飛翔した。
「――でも、僕、契約ってのをするつもりはないよ」
「え!?」
驚いてこっちを向いた彼女は、眼前に迫る壁に気づかず、「あ痛っ」と繰り返して、まさしく縦横無尽に壁にぶつかっていた。
「いや、だって僕、好きな人とかいないし」
「草食か!!」
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