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私は、彼の声が好きだった。
今でも頭に響く。
「**」
でも、私は覚えていなかった。
私がなんと呼ばれていて、彼をなんと呼んでいたのか…
ただ、彼の声が頭に響いて、私を呼んでいた。
どこにいてもその声は響き、誰といても私を呼んでいた。
わからないの…
彼が、私のなんなのか…
好きな人?
ううん、違う。
嫌いだった?
…それも、違う。
…そもそも“彼”とは、いったいなんなのか?
人?
動物?
植物?
無機物?
…わからない。
ただ、彼は私を知ってる。私も…彼を知ってる……。
でも、それだけ。
結局は彼がなんなのかを知ることが出来ない…
「**」
また、聞こえた…
「あなたは、誰?」
「………」
返事はなかった。
彼は、ただひたすら私を呼ぶだけ…
“呼ぶ声”が彼。彼は“呼ぶ声”。
私の中の小さな私が笑顔で言った。
「なぁに、お兄ちゃん」
彼が…
笑った…。
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