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工場から少し離れた場所に設置された食堂へ到着した2人は、セルフサービス式の料理をトレーにのせて席へ着くと、早速料理に箸をつけ始める。
今日のメニューは春巻きと春雨サラダ、もやしの味噌汁にりんご。
ご飯と味噌汁は何杯でもおかわり自由。
それでいて1食220円は良心的でお得だ。
「仕事どう?」
「……まあまあかな。簡単な事しかしてないし、まだ向いてるかどうかわかんない」
「舞も。なんか力仕事だから疲れる」
「舞と違う所で良かった」
その体型からも非力さが窺える清那が、自信なさげに笑う。
そんな見た目からして細身の清那が言う言葉は、誰が聞いても納得の言い分だった。
工場内の作業は3工程に分かれていて、舞と清那はそれぞれ違う工程で働いていた。
前、中、後に分けられている職場はそれぞれ違う役割が与えられている。
ちなみに清那の配属されている『後程』では、力よりスピードが求められる作業が中心だ。
「そうだ、清那。生徒会って興味ない?」
「え?」
「学校の話。原田って先輩が生徒会長やってるらしくてね、メンバー探してるんだって」
「へぇ」
明らかに舞の話に興味のない清那は、進まない箸を手に気の抜けた相槌を打った。
「舞も誘われたんだけど、清那もどう?」
「……」
「清那と同じ工程の優奈先輩も入ってるみたい」
なぜか説明する舞の鼻息が荒くなる。
と。
「ここ、いいか?」
そう言って現れたのは2人の上司である、A班係長の山内宏明だった。
スラッとした体型に彫りの深い顔立ちは、誰の目も引いて工場内にはファンも多い。
「いいよ~」
「軽いな」
主に前工程を担当している山内は同じ工程の舞とは何度も話した事があり、2人の間には自然な会話が成り立っていく。
一方の清那は個人的に話した事はおろか、仕事に関しても彼とは会話を交わした事がなく、楽しそうに続いていく2人の会話に無関心を装って耳を傾けている。
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