Fortuna abyssus

5/176
前へ
/176ページ
次へ
「しゃ、しゃ……喋った……!!」 「え?」 振り向いたメイドは、大きな黒い瞳をいっぱいに見開いて彼を凝視する。 「……昂輝さん? もしかして、私が見えるんですか?」 ソファーからおりて、無防備に近づいてくる。昂輝は恐怖に顔を歪めて後ずさった。 「あ、あんた、なっ、何者だよ! 脈もない、息もしてないのに動けるってどういうことだよ!」 昂輝のわめき声に、メイドはびくりと身体を震わせて黙り込んでしまう。 「…おい、何とか言ったらどうなんだ」 「きゃーん超嬉しいーーー! 昂輝さんとお話ができるなんてー!」 唐突に抱きつかれて、昂輝はメイドに押し倒されて床で背中を打ってしまった。そのはずみに、かけていた眼鏡が床に落ちる。 「ずっとずっと、お話したかったんですー! やーんやーん嬉しいですぅー!」 ぐりぐりと強引な頬擦りを延々と繰り返されながらも、少しずつ冷静さを取り戻した昂輝は、まず手を伸ばして眼鏡を拾う。 「悪いけど、離れて」 すげない言葉にメイドはしゅんとなって、身を離し隣に正座した。眼鏡をかけ直し、昂輝は改めて問う。 「で、あんたは一体何者? ……まさか、ヒューマノイドタイプの宇宙人?」 内心、微かな期待を込めて。 「ウチュウジン? えっとー……地球外生命のうち知性を持つものの総称のこと、でしたっけ?」 「宇宙人じゃないのか?」 「違いまーす。私は、天命の書記官です」 そう言って、メイドはにこやかに笑った。 ―――――To be continued...
/176ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加