残り1ヶ月

2/7
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
『仰げば尊し』が響く体育館の中、列の後方に並んだ三浦 壱哉(ミウラ イチヤ)は、欠伸をこらえるのに必死だった。 久しぶりの登校日。 学年全員が朝イチで体育館に集められて始まったのは、よりによって卒業式の歌の練習。 音楽の授業でも歌わされ、 全員集合しても歌わされ…… 学校にとっては、よほど大事な事なんだろう。 しかし、その重要性がさっぱり理解出来ない壱哉にとっては、 苦痛以外の何ものでもなく。 まだ覚めない眠気をこらえるので精一杯だ。 あ~… 早く暖かい教室帰りてぇ。 睡魔に襲われる頭の片隅でボンヤリ思う。 体育館の各所には灯油式のストーブが置かれていたが、外に雪がちらつく季節柄、その程度の暖房器具の威力など無いに等しく、ポケットに突っ込んだ指先は赤くかじかんでいた。 つかさ、 歌の練習とかマジで何の為にやるワケ? 卒業式でキレイにハモれたから、なんだというのだろう。 ご褒美に金一封が貰えるワケでもなければ、 モテるワケでなくて、 ただひたすらに無意味。 こんな事するくらいなら、教室で寝てた方がまだ有意義だと本気で思っている、 三浦壱哉は、そんな男だった。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!