弐・とある知人と鬼死還に関するレポート

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「近頃忙しくて、人手が足りないんだよね」  優秀な研究員を抱えている軍がなぜ個人でかつ末端の研究者にそんなことを聞くのかと思ったら、そういうことか。  やはり、両国の緊迫感は増しているらしい。  しかしながら、 「ちょっと……その手の最新研究情報は僕も持っていないですね」  この手のことに今のクルト-ラは力添え出来そうにない。  シャウラが怪訝そうな瞳でこちらを見る 「どうして? 『茸博士』なんて言われてるのに毒には疎いの?」 「僕はあくまで個人研究者ですから、『人に効く毒キノコ』の研究は難しいのです」  茸の毒は、新陳代謝によって毒性が異なるため、動物実験で効果ができたとしても人間に効くか否かはわからないのだ。  さらに言うなら、猫耳が生えたり幼くなったりと変な効果のある茸の類には、嬰素が関係している可能性がある。  動物実験をするスペースもないクルト-ラにできるのは今のところ、新種の発見および育成方法の開発、毒成分の抽出ぐらいだ。毒成分の新規発見、実験は難しい。  そう説明すると、シャウラはふーんとだけ呟いてそのまま口を噤む。  その目はまだ、剣呑な光を湛えたままだ。  クルト-ラの臆病な部分を見透かしているのか、はたまたそのもっと向こう側、素性まで見据えて思考を巡らせているのか。  どちらにせよ、あまりクルト-ラにとって喜ばしくないことを考えているのだろう。  
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