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「さわぐなっ! 騒がず金を出せっ!」
使い込まれた片手剣を構えながら、おそらくは傭兵出身なのであろう野党が叫ぶ。
婦人方が悲鳴を上げるよりも、子供たちが泣き出すよりも先に、
「むっ?」
ギロリと、ネコ科の鋭い瞳が傭兵崩れたちを威嚇した。
「ひっ……!」
野党に身をやつしているとはいえ、傭兵は傭兵。
へカトンケイルを知らないものはいないし、わざわざ戦闘狂と名高い彼に喧嘩を売るものもいない。
彼らは、へカントケイルが僅かに腰を上げるや否や、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
残されたのは、場所の隅に固まったまま呆然とする乗客と、中腰の体制のまま伸ばしかけた義手のやり場に困っているへカントケイル。
「……」
何となく、護衛にへカトンケイルが寄越された理由が分かった。
これは牽制だ。野党やよからぬことを考えている輩へ、「軍は常に目を光らせている」と伝えるための。
そうでもなければ、わざわざ大々的に雇った有名人をこんな役目につくことを許すわけがない。すぐさま即戦力として戦場に送り出すはずだ。
「……これから先もこんなことが続いたりしないわよね?」
「しないことを願ってはいますが……」
レスートやシャウラが一枚噛んでいたら、分からない。
残念ながらこの後ルナの言った通り、アムリタへ着くまでの道のりでこれを何回か繰り返すこととなった。
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