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「そういうわけだ、今日のところは引き上げるぞ」
「はい……っと、パドストール?」
しぶしぶ茸の詰まった籠を背負って立ち上がりかけると、それまでスンスンと地面の匂いを嗅いでいたパドストールが動きを止めた。
そして唐突に、牙を剥き長い毛を逆立てて、激しく吠え始める。
激しく吠えたてるその視線の先には何も見えない。否、見えないだけだ。
クルト-ラも、何回か遭遇したことのある、背中の粟立ついやな感覚。
「……ルナさん、逃げますよ」
「何よ、ホントに何か出たの?」
「出た、というより出そうです。今にも」
どこか張りつめた空気に表情を険しくするルナの腕を掴んで、吠えるパドストールも籠の上に乗せて、すぐにでも逃げれる準備をする。
経験上こういうときは出てくる前にそれの視界外に逃げるに限る。
「へカントケイルさん、お先に失礼させて」
それの出現を獲物を狙う肉食獣の体で待ち構えるへカントケイルに、ひと声かけるために振り返りかけたその時、黒い何かが先ほどまで腰かけていた倒木を踏みつぶした。
黒い丸太ほどの太さのある脚、クマよりも大きな体躯、鉄臭い吐息。
パドストールのようにもどきなどとは形容できない、魔獣としか表現できない生き物が、こちらを見下ろしていた。
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