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「クルト、お前が何でここに……」
「茸の、イストリアに知り合いなぞおったのか?」
「! 貴様、ネフティスの……!」
「む?」
ルナの問いに答えあぐねている間にも、転がり落ちるように事態は悪化していく。
鎧を着た複数の足音の主たちは茂みの向こうから声を上げ、男の瞳は驚きつつも確実にクルト-ラを認識する。
一人なら何とか誤魔化せたかもしれないが、この状況にへカントケイルまで混じったのだから問題だ。
おそらくは貴族所有の私兵とはいえ、『イストリア軍』が『ネフティスの傭兵』に遭遇したのだ。
穏やかにことが進むはずがない。
事実、向こう側の幾人かは剣を構え、後ろの方で神術に用いる杖が見え隠れしている。
「どうするのよ、この状況っ」
小声で語気を強めるルナの声で、混乱していた頭が一旦現実に戻ってくる。
とにかく、本気でこの場をあやふやにしないとまずい。
クルト-ラは一度だけ深呼吸をして、やけくそ半分に聖印を切る。
何年も使っていないし、媒体の杖もないが、使えなくなっている訳ではないはずだ。
「天におわす御神御霊に願い奉る。その御息にて、怨敵の行く道帰す道を阻みたまへ――」
トン、と軽く足を鳴らすと同時に、1m先の視界すら白く塗りつぶす濃霧が、一帯を覆った。
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