五・報告と自己分析についてのレポート

7/7
前へ
/55ページ
次へ
「なんでこんなところで会うんでしょうねぇ……」  ふかふかの毛に顎を埋めて、ため息をつく。 「……家族に会って決意揺らいじゃったわけ?」 「はい?」 「イストリアを出たことへの決意」  唐突な、どこか核心めいた発言に思わず間の抜けた声を出して――口をつぐんだ。  橙の瞳が、まっすぐにこちらを射ぬく。 「だってそうじゃない。もう捨てたなら、そううじうじしたりしないし兄以外をかばう真似なんかしない」  結局着続ける白いローブ。研究者の癖に人に害を与える茸の研究には消極的。  名乗らない苗字。頑なに使わずにいた神術。  まるで固執するようで、まるで必死に断ち切ろうとしているよう。 「……いえ、そうではありません」  イストリアに帰りたいのかと聞かれたら、答えはノーだ。  今の生活に満足しているし、出たことへの後悔もない。  きっぱりと言い切ったクルトーラに、ルナは眉をひそめる。  彼女は、如何に差別されようが利用されようが、イストリアに帰ることを望んでいる。故郷というのは本来、そういうものなのだろう。 「じゃあ、なんでそんなに迷ってるのよ」  再び、問い。  決めたことに揺らぎはなく、後悔もない。  ではなぜ、こんなに不安になるのか。 「なんででしょうねぇ……」  もふりと、パドストールを抱き抱えたまま横になり、天井を仰ぎ見る。  少し汚い天井では小さな蛾が、ランプシェードの中で出れずにもがいていた。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加