13人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんでこんなところで会うんでしょうねぇ……」
ふかふかの毛に顎を埋めて、ため息をつく。
「……家族に会って決意揺らいじゃったわけ?」
「はい?」
「イストリアを出たことへの決意」
唐突な、どこか核心めいた発言に思わず間の抜けた声を出して――口をつぐんだ。
橙の瞳が、まっすぐにこちらを射ぬく。
「だってそうじゃない。もう捨てたなら、そううじうじしたりしないし兄以外をかばう真似なんかしない」
結局着続ける白いローブ。研究者の癖に人に害を与える茸の研究には消極的。
名乗らない苗字。頑なに使わずにいた神術。
まるで固執するようで、まるで必死に断ち切ろうとしているよう。
「……いえ、そうではありません」
イストリアに帰りたいのかと聞かれたら、答えはノーだ。
今の生活に満足しているし、出たことへの後悔もない。
きっぱりと言い切ったクルトーラに、ルナは眉をひそめる。
彼女は、如何に差別されようが利用されようが、イストリアに帰ることを望んでいる。故郷というのは本来、そういうものなのだろう。
「じゃあ、なんでそんなに迷ってるのよ」
再び、問い。
決めたことに揺らぎはなく、後悔もない。
ではなぜ、こんなに不安になるのか。
「なんででしょうねぇ……」
もふりと、パドストールを抱き抱えたまま横になり、天井を仰ぎ見る。
少し汚い天井では小さな蛾が、ランプシェードの中で出れずにもがいていた。
最初のコメントを投稿しよう!