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ドアを開けると、夏場が近付いてきているのだろう、にじり寄るような暑さが身に染みる。冷夏とのことなのだが、現代っ子としては項垂れるものがある。
追い出される形となったシンは、気だるそうに溜息を漏らした。それは暑さにではなく、急な事で何の予定もなかったからなのだ。
途方にくれながら、何をしようか考えながら歩いていると、既にエレベーターの前まできていた。良いアイディアは浮かばずとも、歩けば前へと進むのは当たり前。仕方がないシンは1Fのボタンを押した。
(さてと……何しようかな)
それはエレベーターが1階に辿り着こうが変わらない。思いつかない。懐から携帯電話を取り出したシンは、マンションの出入り口に向かいながら、手当たり次第に友達に電話を掛ける事にした。
「たくぅ……何でこう言う時に、誰も暇してないんだよ」
勿論アポなしなのだ。そうそう暇を持て余している友達がいない。特に友達が少ないと言う訳ではなくとも、掴まらない。友達にも予定があるのだろう。
携帯電話のディスプレイをスクロールしながら、ふと指が止まった箇所があった。「コイツか」と呟いたシンは、どうにも躍起が出ない様子。恐らくは暇そうな友達なのだろう。それでも、表情は優れない。
ディスプレイに表示されている名前は安部 来栖(あべ くるす)。このクルスには、少し変わった趣味があるのだ。心霊マニア。いつも怪しげな事に付き合わされるので、あまり関わり合いになりたくないと 密かにシンは思っていた。
それでも、シンには残された選択肢がない。友達は少なくなくとも、遊べる友達は少ないのだ。今時の小学生と言うのだろうか、表面上の友達なのだろう。
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