鴉の恩返し

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「あの日私は、夕刻前に街の近くの草原に有る野鼠の巣を狙っていました。そこを、心無い人間の青年達に矢で翼を射抜かれて捕まってしまったのです。捕まった私は街の小道の奥へ連れて行かれ…矢が刺さったまま彼らの蹴鞠にされておりました。」 「なんと!やはり人間とは愚かな生き物よ!」 「長老様…確かに彼らは愚かでした。しかし、同じ人間の女性が、自らの犠牲も省みず私を助け出し、治療まで施して下さったのです。その女性はパティシエ学校の制服を着ていました。…その真っ白な制服が、私の血で汚れていきました。私を助ける際に青年から脇腹に大きく蹴りを食らっており、それが痛んだのか体制を崩し転んだ時も、私を庇い転んだお陰で余計な怪我を…それでも彼女は私の手当てをし、周りの目も気にせず病院まで連れて行ってくれ、全財産をはたいて薬を買い、私をここまで回復させてくれたのです。食事も穀物ではなく、生レバーをわざわざ買い、小さく切って頂きました。」 「私達は鴉なのよ、その、女性に酷い事は言われなかったの?」 母は心底心配そうに訪ねた。 「とんでも御座いません。逆に子犬と何が違うのか、と周りに怒りを向ける様な方で御座いました。」 「人間に、左様な者がおろうとは…儂ら鴉は人間には嫌遠される存在であろうに。」
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