鴉の恩返し

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「…私はあの方に恩返しがしたい。それを叶える為に、私は執事学校に通い、執事の資格を取ろうと思っております。彼女の為だけの、執事になる。そして彼女を助けたい…御力になりたいのです。」 その言葉を聞いた父は猛反対した。 「黒羽!また彼女が優しくして下さるとは限らん、それに鴉の亜人の執事など、誰が雇うものか!不吉だ不吉だと言われ続けている我々鴉族が!菓子屋の執事など!私は反対だ、学校でだって良い扱いは受けないだろう!」 「そ、そうよ、黒羽…せっかく帰ってきてくれたのに…母は心配なのです、これ以上この母を心配させないで…」 父は怒り、母は泣き崩れる。しかし、黒羽の決意は固かった。 「全て承知の上です。どんな陰口も我慢し、暴力にも屈しない。勿論勉学も怠りません。命を救われ、その恩人に恩を返さない愚か者がこの部屋の何処に居ましょう?」 話を聞いていた長老は、低い声で話を始めた。 「黒羽よ…一族の長として、忌み嫌われている同胞の命を救ってくれた彼女へ感謝の意を私からも表したい。…だがそれは、彼女が店を構える時の費用を全て私達が持つ、それでは満足いかんのかね?」 「…彼女は、悪く言えば頭が悪く無鉄砲で非常識な人間で御座いました。しかし、とても素直で真っ直ぐなのですよ。ですから、お側に居てお守りしたい。」 「そこまで悪く言わぬとも…だが彼女は悪い人間ではなさそうだな。しかし、同胞の中にもお前を心配するあまり反対する者も居るだろう。それに、他のパティシエに選ばれてしまった時はどうするのだ。」 「私が執事になった理由を簡潔に説明し、御断りさせて頂きます。…あの方が私を見つけるその日まで、待つ覚悟も出来ております。」
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