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神社に着くと、神主に事情を説明し、早速儀式の準備が始まった。
ヤタガラス神の像の前に供物を置き、両側に蝋燭を灯す。黒羽は供物の前へと座り、精神を落ち着かせた。神主がヤタガラス神をこの神社へと降ろす祈祷を始める。
祈祷が終わると同時に蝋燭の炎が有り得ない程に大きく燃え上がり、供物の川魚を灰にした。ヤタガラス神がお越しになられた、と神主は告げた。
「…ヤタガラス神よ、貴方に問いたい。私は里を下り、ある人間に恩返しをする為に生きたいのです。どんな困難も苦痛も乗り越えて見せます。命を救われ、鴉の名誉を決して傷つけなかった彼女へ、この黒羽の命をかけてご恩をお返ししたい!お許し願えるであろうか!」
黒羽の声が強く響き渡る。
少しの間の後、神社内全ての蝋燭の灯りが消えた。
「ど、どうしたというのだ!こんな事は初めてだ!」
神主が叫ぶ。
長老、両親、神主、そして黒羽までもが、『許されなかった』と思った。
が、次の瞬間、神社に飾られている鈴の数より、明らかに多くの鈴の音が煩いくらいに鳴り響いた。
シャンシャンシャンシャン…
シャンシャンシャンシャン…
誰もが驚き、声も出ない。
しかし全員が、その鈴の音の中ではっきりと聞いた。
『人間に命救われし鴉の子よ、その命、その人間にだけ捧げることを許そう。例え妻を取り子を授かりし時も、その命はその人間のものだ。忠義を誓い、鴉の名を決して汚すでないぞ。』
鈴が一斉に鳴り止むと、神社の灯りは全て元通りに灯った。
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