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「ここは壬生浪士組屯所だ」
独り言に返ってきた答えは、あまりに意外な物。
「っ!?」
思わずガバッと上体を起こした。
その動作は焦っているようにも見え、男の切れ長の瞳はスッと細められる。
「演劇部か何か?
凄いリアルなセットだねぇ。
発表会とかやるなら私も呼んで?
私、新撰組大好きなの!」
笑顔でペラペラと話す彼女に、男は眉間に深々と皺を刻んだ。
「意味不明な事言いやがって……。お前……何者だ?素直に答えろよ。
嘘を言えばその首飛ぶからな」
スラリと抜かれた刀は鈍く光り、どこか血の臭いを漂わせる。
喉に突き付けられた刃は、息が詰まるような緊張感を感じさせた。
――血の、臭い……本物……?
刀は彼にしっくりと馴染み、違和感の欠片もない。
睨み付けてくる眼差しは、彼が本気だと告げていた。
「……」
「!?お前っ……」
そっと指先を刃に滑らせると、つぅ……と血が溢れる。
本物、だ……。
「……わ、たし……私は一ノ瀬旭(イチノセアサヒ)……。
付かぬ事をお聞きしますが……今、何年です?」
血が、流れる。
「あ?文久三年だろ。
一ノ瀬、お前……どっから来た?」
流れた赤はポタリと零れ落ちた。
私は、タイムスリップしてしまったらしい。
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